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バッカじゃないの!?長すぎるのよこの無能!!
と、ツンデレ風に罵られました。 問題は何処にもデレがない所です。 そんな訳でSSですよ。 長くなり過ぎたんで前後編にしました。 うっかり更に前中後編になったりしてー アハハハハハハー…… 笑えませんね。
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上手くいった。実に上手くいった。 夜陰の中、茜は淡々と呟く。 所属する結社の、更に友好結社たる傭兵団。 其処の訓練会を見学した、その日の夜。 何故そんなモノを見学したのか、それは… その訓練の主役たる嘉島真貴と言う男が、自分の友人だったからだ。 その彼の戦いを、親愛なる岩崎木乃香が見守りに赴いていたからだ。 先日、嘉島真貴が岩崎木乃香に告白したばかりだからだ。 『ご苦労様でした』 二人を残して訓練室から出ようとした時、傭兵団の長である神井上人に会った。 そもそも、この男はその日の訓練のもう一人の主役だったのだ……敵役と言う名の主役。その役割を全うし、嘉島真貴から勝利を奪った後、とっくに帰った筈だった。 なのに、当然の様な顔をして出入り口横に待機し、それが普通だと言わんばかりに中の会話を聞いていたらしいこの男は、何故か、何故だか茜に対して労いの言葉をかけて来た。 観客の一人に過ぎない、そもそも結社員ですら無い自分に。 全て御見通しですよと言わんばかりに微笑んで。 正直、すこぶる癪に障ったので『ブン殴ってやろうかこのニヤケメガネ』とわりと本気で考えたのだが、我慢した。 腹立たしいが、今回の事に関して言えば…… なるほど、あの男は全て御見通しだったのだから。 * * * * * 【不器用な恋歌を聞きながら 前編】 事の起こりは、そう、先日のソフトボール大会があった日の事。 メールが来た。 差出人は知人の自称情報屋。 『今すぐ○○○の観客席に来い。走って来い』 文面はたったコレだけ。 相手は、ハッキリ言って口先ばかりで実際には大した事も出来ない子供である。ましてこっちは一試合終わったばかりで疲れてると言うのに、いったい何寝言を言っているんだこの馬鹿は。蜜柑食べて御腹を下してしまえ。 そう思い、即座に携帯を閉めかけたのだが、危うい所で音声ファイルが添付されている事に気づき、思い留まった。 再生して見れば、聞こえて来たのはこんな言葉。 “この試合を完封出来たら、告白するかな。” 嘉島真貴の声だった。 即座に走った。 今なら世界新が出せるんじゃないだろうかと言う位本気で走った。 実際の所、嘉島は良い男だと思う。 この告白宣言にした所で、冗談交じり、いや9割方冗談で言った軽口だったのだろうに、本当はまだまだ覚悟を決めるに時間を要する段階だったろうに。 しかし彼は己の言葉に責任を取った。心無い野次馬(全くもって、酷い人間が世の中には居るモノである。性質の悪い犯罪者のではないか、ぷんぷん)の無責任な煽り文句に生真面目に、そして臆する事無く応じ、対峙しながら… 終には本当に完封してのけ、 そして己の想いを、当人に向けて紡ぐ事を宣言したのだ。 『大会が終わったら、保健室で待っていてくれないか。話がある』 『……?別に構わないけど……』 後の待ち合わせを申し出られ、 キョトンと『此処じゃ駄目なの?』とばかりに首を傾げながら応じた木乃香を前にしても、彼は動じず震えず、堂々としていたものだ。 何故かその時、茜の方をチラっと見た気もするが。 何故だか性質の悪い犯罪者を糾弾するかの様な目で睨んで来た気もするが。 自分は特に恥じ入る様な事は一切した覚えが無いので、気のせいだろう。 気のせいったら気のせいである。 * * * * * 『何故、煽ったのだ?』 先回りした保健室、盗聴器、録音機、各種を設置して居た時。 同行した岩崎燦然世界にそう、聞かれた。 茜と木乃香の所属する結社、デスパレードの結社長、団長、岩崎燦然世界。彼女もまた、先程の観客席に来ていたのだ。と言うかそもそも、保健室にこんな物を仕掛ける事を指示したのは他ならぬ彼女である。もっとも彼女自身は設置は手伝わず、入り口にて人が来ないかの見張りを担当している。細かい作業は苦手との事だ。 『と、言いますと?』 マニュアルを片手に配線を確認する作業を止め、顔を上げる。 見張りである燦然世界の顔は当然外に向かっている。茜から見えるのは彼女の背中──実際には女性らしく柔らかい線をしているにも関わらず、何故か不思議と広く見える──そんな岩崎燦然世界の背中だけだった。 『つまりだ、先程の観客席で、性質の悪い犯罪者よろしく嘉島真貴に対し「告白しろーしろー」と呪詛の様に煽りまくった理由を聞いている』 『……あー、その、やっぱり不味かったでしょうか…?』 内心ビクビクしながらも、顔には苦笑を作って首を傾げる。もし不味かったと言うならこの盗聴器は何なんだ、と思わなくも無いが……しかし矢張り不安な物は不安だ。 茜の声が少し震えている事に気づいたのだろう、燦然世界は少し口早に続けた。 『ああいやすまぬ赤金茜。別に責める気は無いのだ。寧ろ私は良い事だと思っている!あの木乃香はしっかり者の様に見えて、何と言うか何処と無く危うい所がある。共に歩む者が出来るのは僥倖だろうし、それに何より、命短し変ぜよ乙女と言うではないか!』 『……変ぜよ?』 『うむ!“短く限られた時間の中で、出来るだけ沢山の変化を経験し成長せよ”と言う意味だと理解している!』 『……………なるほど』 その、これ以上ない位堂々とした言葉に、茜は生返事を返しながら作業を再開した。 今思い出したのだが、この同行者は非常に声が大きい。このまま会話を続けていれば、程なく声を聞きつけた誰かがやって来る恐れが高いだろう、作業は手早く終わらした方が良い。 会話自体を中断しよう。とは、何故だろう、何となく思えなかった。 『それで、何故?と言う訳ですか………でも、私が嘉島様を焚き付けるのは、そんなに変ですか?』 質問に質問で返す。 ある種最も嫌われる類の、失礼な受け答えである茜の言葉を、燦然世界はどう受け取ったのだろうか。肩をすくめて、 『変と言うか、少し意外に思ったぞ。ああ言う場合、茜は寧ろ邪魔に回る様な気がしていたのでな』 そう答えた。……これを臆面無くキッパリと言ってのけるから、この人には敵わない。 と言って、そうですねと肯定できる様な事でもなく、茜は首を振って反論する。 『……このか様は、私にとって、とても大切な方です』 『うむ。傍で見ていて実にほんわか出来る睦まじさだ』 『その大切なこのか様を大切に想う人が他にも居る事は、私にとっても喜びです』 『うむ。一人よりも二人、二人よりも百万人だな』 『それに、そもそも恋と言う物は……恋せるのは、幸せな事です』 『うむ。稀に苦しい時もあるが!総合的には大賛成だ』 『ですから、嘉島様が、このか様を幸せにして下さるなら。守って下さるなら。私がそれを嫌がる理由なんて、何も無いじゃあ無いですか』 『うむ。全くだ』 実にアッサリ肯定された。 流石に思わず少しツンのめり、機器に向け俯かせていた顔を上げる。 視線をやれば、相変わらず“広い”背中を向けたままの燦然世界は、言葉を返そうとする茜の口を封じるように続けた。 『だが、ならば何故お前はそんな顔をしているのだ?』 絶句した。 それはそうだろう、何処の世界に相手に背を向けたまま相手の顔色を指摘する人間が居ると言うのか。背中に追加の目玉がついているのなら別だが、生憎とその時点でそれは人間ではない。 『そんな顔も何も…!岩崎様私の顔見えていないじゃあないで… 『確かに見えん。見えんが、お前が今、迷子の子供の様な顔をしている事は分かる』 絶句した。 ……。 岩崎燦然世界は、れっきとした人間である。人間の筈だ。 『…………何で……そう、思うんですか?』 『なんとなくだ』 即答である。 ……何と言えば良いのか分からなかった。 茜は、燦然世界の背を眺めたまま硬直し、沈黙だけが着実に重なる。 『茜』 その沈黙を破って、燦然世界の後姿が、続けて口を開いた。 実際よりも広く見える背、大きな背が言葉を紡ぐ。たった一言だけ、珍しい位小さく、低く、優しい声色で。良く通る声が、茜の耳朶を柔らかく叩く。 『まだまだ未熟だが、 私はお前たちの長だ 』 どんな大音声よりも、轟音よりも、それは脳を揺さぶる言葉だった。 『……岩崎…様。私は……』 何か、言わなくてはならない。答えを返さなければいけない。そう思って口を開くが、上手く言葉が出てこない。そして、例え出たとしても、では何を言えばいいのか全く分からない……。 喉に何かが詰っているかのような圧迫感、呼吸すら難しい。それでも、得体の知れない焦燥感に押され、必死に声を発そうと喘ぐ。 そんな茜の様子を気配で察したのか……或いは、本当に背中に目でもあるのか、燦然世界は少し普段通りに戻りつつある、しかし矢張り優しい慰撫するかの様な声音で、言葉を綴った。 『実はな茜よ……私にも、そう言う経験があるのだ』 『……え』 少なからず、と言うか相当に驚いて声を上げた茜。 しかし広い背中は動かない。 ただ言葉を重ねるのみ。 『今のお前の様に、大切な者達からはぐれ、道を見失い、一人迷ったかの様な顔をした事があるのだ、私にも。……遠い昔の話だがな』 『岩崎様……』 その時の記憶へ、想いを馳せているのだろうか。燦然世界は心持ち顔を上に向け、懐かしむような声音で語った。 『あれは、激しい土蜘蛛戦争を終え、京都から帰路に着こうかと言う時の事だ』 『いや、それ、ついこの間ですね』 正確には二ヶ月足らず前の事である。 『私は不覚にも、道向こうに発見した野良猫と戯れる事に夢中になってしまい…!』 『すいません。オチ読めたんでもう良いです』 『気がつけば周囲に大切な仲間は一人も居な……え?ぇええ!?もう良いの!?』 此処で初めて燦然世界はこちらを振り返った。 なんとビックリそんな馬鹿な、と言わんばかりの驚愕顔である。 『と言いますか、あの時急に居なくなったと思ったらそんな理由だったんですか』 『そんな理由だ!それより本当にもう聞かなくて良いのか私の“迷宮古都放浪記”』 『どうやったらあの碁盤目状の街で迷えるんですかって言うか、題までつけますか』 『ポロリもあるぞ?』 『いりません』 一言ずつ近付きながら熱弁してくる燦然世界を半眼で睨みつつピシャリと断る。 全くもって、色々なモノが台無しである。 シッシと手を振る指示に従い、ションボリとした様子で入り口に戻る背中を(今だけ限定で小さく見えた)眺めながら、少し溜息をつき、 そこでようやく、先程までの喉への圧迫感がスッカリ無くなっている事に気づいた。 『岩崎様…!』 声もスッと出る。 『…ん?』 燦然世界が振り返る。普段通りの顔だ。 何時も通りの、優しい笑顔。 言うべき事も……いや、言いたい事も、思い浮かんだ。 『……少しだけ、寂しいんです』 『ん』 『少しだけ、ですけど……』 『そうか』 再び、場に沈黙が下りた。 茜が機器を調整するカチャカチャと言う音だけが、静かな保健室に響く唯一の音。 穏やかで暖かい、心地よい空気が場を覆う。 ……。 正直、この空気を壊したくは無い。だが…… 少しの逡巡の後、茜は再び口を開いた。 『岩崎様』 『なんだ』 『このか様が大怪我をなさった時の事、覚えていますか?』 『……』 空気が一変、重くなった。 当然ではある。何故なら岩崎木乃香が重傷を負った依頼、それは、先の蜘蛛戦争への加速の引き金となった、初めて鋏角衆が現れた依頼の一つなのだから。 『あの時は、ショックでした』 『……ああ、私も大いに取り乱した』 『でも、このか様は、もっとショックだったのでしょう…』 『それは…。そうだろうな』 蜘蛛型の妖獣、後に蜘蛛童と言う来訪者だったことが判明するその存在から、一人の老婆を救い出す為の依頼。 その依頼は、運命予報士すらも予想し得なかった鋏角衆の出現により、失敗に終わった。木乃香は、老婆を、その命を、救えなかったのだ。 『私達は皆、無力でした』 カチャカチャリ…。淡々と語りながら、しかし作業の手は止めない。 気を紛らわそうとするかの様に。 『私は、このか様を御慰めしたかった、けど、このか様は慰めを、拒みました』 これは自分の未熟の呼んだ失敗。これは自分の背負うべき罪。 茜の敬愛する少女の背は、あの時、ハッキリとそう語っていた。 『私はあの方の為に何か、何でも良い。して差し上げたかった……。けど、それを拒むこのか様だからこそ……。御自分で背負い切ろうとする、そんなこのか様だからこそ私は……』 パチリと音を立てて、機器の蓋が閉まった。 『だから、私には何も出来なかったんです……』 機器の密閉度合いを確認しながら、茜は搾り出すように呟いた。 燦然世界は何も言わない。ただ黙って聞いている。 『でも、クロダ様が、私達に機会を与えて下さいました』 デスパレードの同胞、ガンナー・クロダ。彼も又、土蜘蛛と相対する依頼を担当した。 その際、『リベンジさせてやりたい』と、彼は木乃香と茜をサポートとして呼んだのだ。 友に与えられたチャンス。 老婆を救えなかった木乃香。その時、木乃香の傍に入れなかった茜。 二人は、それぞれの覚悟と決意を込め、サポートにあたった。 サポートとしての二人の貢献がどの程度のものだったのか、それは分からない。 だが、事実として依頼は成功した。 この事が一区切りとなった事だけは、間違いない。 『補助でも、何も出来ないよりずっと良い。私は、嬉しかったです。出来る事があるという事が。そしてそれが成功したと言う事実が。“何か”を為す事が出来たのだ。と言う事が』 周波数を合わせるべく、ボタンを弄る。 『私はそれで、満足していました。このか様も同じだと思っていました……けど』 『…?』 茜の声のトーンが、少し、低くなった。 燦然世界も、それを敏感に感じ取り、少し身構える。 『依頼の帰り道、このか様は別行動を取ったんです』 低い声のまま、丸で機械の様に無感動な声で、茜は続ける 『野暮用がある。と仰っていました。私は、変だと思いました。だから後をつける事にしました。このか様は電車に乗りました行き先は』 訂正。無感動な声ではない。 逆だ。感情が篭り過ぎて逆に平坦になっている。そんな声。 『行き先は、御墓でした』 『……!』 『野暮用というのは、御墓参りの事でした』 『このか様が救えなかった、御婆さんの、御墓です』 ……たった一人で、無人の墓地に訪れ。 何も言わず、黙ったまま花を添え、線香を焚き、手を合わせる。 そんな姿を、茜は唇を千切れるほど噛みながら。ただ黙ってみていた。 黙ってみている事しか出来なかった。 何も出来なかった。 『あの方は、それでも未だ、全てを、御自分一人で背負い切る積もりなんです』 その目には、怒りすら浮かんでいた。 ナゼ、 モット頼ッテクレナイノカ。 甘エテクレナイノカ。 求メテクレナイノカ。 『けど、そんな事、言えない。私には言えない』 木乃香は、茜の敬愛する岩崎木乃香は。 己の業を、罪を、失敗を、過去の全てを、自ら一人で背負う。背負おうとする。その清廉こそさが、気高さこそが、茜には眩しく、憧れを感じ、そして 『大好きだから』 ケレド、ソレデ本当ニイイノカ? 岩崎木乃香の背は小さい。腕は細い。けれど心は 強い か? 本当に? 本当に大丈夫なのか? 全てを背負い、たった一人で己を支えて、 あの背は何時か、潰れてしまうのではないのか。 いいや、それどころか、墓前にてしゃがみ目を閉じるあの姿は。 既に、今にも潰れそうには見えないか。 『その内、出し抜けにこのか様が倒れました』 何の事はない。何時もの貧血である。 だが、何時もの事と分かっていても、勿論放っておける訳もなく、茜は即座に隠れる事を放棄し彼女の元へと駆け寄った。 『このか様を背負って、帰り道を歩きました』 『このか様を背負って、帰り道を歩きながら、思いました』 『私には、無理。私には、何も出来ない……って』 機器を弄る手は、何時しか完全に止まっていた。 『このか様には、支えになってくれる人が必要です。絶対に、必要だと思います』 準備した機器を、ポテトチップスの空袋に入れる。 それとは別に新品のポテトチップスの袋を空け、中身の一部を機器の入った空袋に詰め、外から機器が見えないようにする。 基本的に真面目な性格をした木乃香は、自分の空けた覚えのないこの菓子を、そうそう食べようとはするまい。 『そして、それは、私、には…………無理。です』 『何故だ?』 何時の間にか、岩崎燦然世界の体は、出口ではなく茜の方を向いていた。 健勝な背筋をピンと伸ばし、強い意志を感じさせる瞳にキリっと力を込め、真っ直ぐに、茜の目を見据えて。 『茜。お前の話はぱっと聞き理屈が通っているように聞こえるが、何処かがおかしいぞ?私は難しい事はわからん。わからんが、お前が木乃香の支えになれない理由はもっとわからん。納得がいかん。もう一度聞くぞ、何故お前は“木乃香の支えになれん”のだ?』 『…………』 保健室の中を、今度こそ、完全な沈黙が支配した。 『岩崎……様』 『ん』 『作業、終わりました』 『…そうか、では帰ろう』 茜は、答えなかった。 燦然世界もまた、それ以上問わなかった。 * * * * * コロッセオの様な野外ステージ。 それが純粋結社、戦闘楽団デスパレードの外観である。 野外ステージとは言っても勿論、屋内と言える部屋は幾つかあり、今回受信機が即席された部屋は、その一つだった。 部屋の隅に無造作に置かれた、“京都土産”と書かれたタスキを身に着けた海賊ルックのネズミのヌイグルミ(確かポロなんとかと言う、子供向け番組のマスコットキャラクターの一匹だった様に思う)が無性に気にはなったが、今はそんな場合では無い。燦然世界に根掘り葉掘り事情を聞きたい衝動を堪え、茜は即座に受信機器の調整に取り掛かった。(余談だが、そのヌイグルミは次の日には夢か幻だったかのように無くなっていた。燦然世界に確認をするも生返事でかわされてしまい、今日まで結局ソレが何だったのかは謎のままである) 会話がハッキリ聞こえるように慎重に調整し、結社員の幾人か(主に木乃香と付き合いの長い者)に事情を連絡した結果、準備の全てが終わった頃には結構な時間が経っており、さして待つ必要もなく音声出力機器は、保健室から盗聴した二人……言わずと知れた嘉島真貴、そして岩崎木乃香の会話を出力し始めた。 『『『……』』』 その場に居た全てが、固唾を呑んで耳を傾ける。 会話は流れ行く。 ソフトボールの話。 嘉島が初めて保健室を訪れた日の話。 土蜘蛛戦争の話。 そして聞こえるその言葉。 “お前が大切だからだ。” 『『『!!!』』』 場の空気が色めき立つ。 ある者は思わず立ち上がり、ある者はキョトンと首をかしげ、またある者は顔中の穴と言う穴から緑色の液体を噴き出し…… ……見なかった事にしよう。 ピーンピングトム達が如何に騒ごうと、保健室の方にはその音は伝わらない。 会話は、更に進む。 言葉は紡がれる。 “…俺は、お前が好きだ。そういうことだ。” 言いやがった……!! 玖凪蜜琉が華の様に笑ってガッツポーズを取った。 妙蓮寺白楽が地獄の様に甘い毒でも飲んだかの様にのた打ち回った。 魔護位威が七色の……見なかった事にする。 天浦雨禅がかんぴょう…では無くハンカチを噛んだ。 赤金茜は己の両膝を握り潰した。 膝の肉と一緒に、内心の錯乱も握り潰す。 感情の整理はつかない。 心の中に渦巻くよく分からないイガイガは、未だ消えはしない。 だが、これで良い。これで良いのだ。 “わたし…べつに、好かれるようなコトなんて…” 機器から聞こえる、木乃香の戸惑った様な、少し恐れを含んだ声を聞きながら、茜はゆっくりと呟く。これで一区切りだ。これで…… ……え? “だ、だって…私に出来る事なんてこれぐらいしかないし…怪我人直せない薬屋の娘なんて『いる意味がない』じゃないですか…?” ……おい。 “…私がもっと優しくなれば…皆…もっと、喜んで、くれます、か?” ちょっと待て、一体何を言っている? 待て。木乃香様?貴女は…… “…たりないん、です。…何かしていなきゃ…押しつぶされそうなんです。…蜘蛛に殺されたお婆さん、戦争で死んだ皆、それに……取りこぼしてきたモノが、わたしを、ゆるさない。” “……誰かの…誰かの役に、立たなきゃ…誰かに喜んで貰えなきゃ、いきていけないんです…” フ・ザ・ケ・ル・ナ ────バキン!──── 鈍い音が響いた。 気がつけば──実に不思議な事に──座っているテーブルの縁が砕けていた。 ヒリヒリする指先を口元にやり、更にガリリと噛む。 冗談ではない。冗談ではない!この期に及んで未だあんな事を言うのかあの人は。 生きていけない?生きていけないそんな馬鹿なそんな馬鹿な、貴女は、人が生きていくのに何の許可が居ると言うんだ貴女は未だあの老婆の死を、救えなかった命を未だ背負っていつまでも背負ってこれからも背負い続けて、これからも背負うものはどんどん増えていくのにそれを全て背負ったまま、挙句人の支えを拒否、いや違う、拒否ですらなく、ただただ遠慮すると言うのか!? そんなのはあり得ない。そんなのは絶対に許せな─── “だったらッ!……だったら、俺がいる。お前が居てくれて俺は嬉しい。一人で何でも背負い込もうとするな…半分くらい、俺に寄越せ。” …頭が冷えた。 機器が吐き出す嘉島の真摯な言葉に耳を傾けながら、自戒を込めて自分の米神を拳骨で軽く殴る。改めて思う、嘉島真貴、貴方は本当良い男だ。ナイスガイだ全く。 ……そして、それに引き換え自分は実に馬鹿だ。馬鹿は私だ。 何も出来ない癖に、何もしない癖に、盗聴器に耳そばだてながら何を怒り狂っているのか。馬鹿だ。滑稽だ。馬鹿だ。悪い子だ。……本当に悪い子だ。 未だ会話は続いていたが… …正直、とてもそれ以上聞いていれる様な気分ではない。 茜は席を立ち、逃げる様に部屋を後にした。 ──── 後編へ続く ──── PR |
え?
リンクが張られている実際の告白シーンが団員・友好専用スレッドで閲覧できない? HAHAHAHAHA!大丈夫さスティーブン!(誰だ) そう言う時は保健室に友好申請しちゃえば良いんだよ!! 保健室と友好を繋げば嬉恥ずかし告白シーンが見れるんだ! 見えちゃい過ぎる位に見えちゃうぜ!? さあ、今すぐ結社に戻って友好申請or結社長におねだr(ターン)
【2007/06/12 13:34】| | 赤金茜の中の人 #2ab03f4b72 [ 編集 ]
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