「……何て顔してるのさ」
鏡に向かってそう罵る。
実際、鏡に映ったその顔は酷い物だった。ギュッと寄せられた眉間の皺、キリキリと釣り上がった眉、腹立たしげに毒々しく燃える瞳。100人が見て100人が『ああ、この娘は苛立っている』と一目で気づける。そんな形相。
「明日はパーティだよ?そんな顔で出るつも……」
戒めるようにもう一度呟く。だが、その声にも棘が含まれている事を自覚して沈黙。
目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をする。
吸って、吐いて。目を開く。
「……明日はパーティです。それも、クリス様の御誕生日ですよ?」
優しく、ゆっくりと鏡の中の自分に言い聞かせ、ニッコリと微笑む。
大丈夫。笑っている。
そうそう。之で良い。パーティと言うのは、笑顔で参加する物だ。笑って楽しんで、周りも楽しませるべく頑張って、そう、楽しい場にしなくては。一人一人 がそう願い尽力する事で『楽しい空気』は出来上がるのだから。それが敬愛する相手の祝い日であれば、尚の事言うまでもない。
それが普通なのだ。それが正しい在り方なのだ。それを守るのが良い子なのだ。
TPOを弁える。
相手の心情を慮る。
何事も楽しみ堪能する。
口の中でそう唱える。呪文の様に。大切な事なのだから。
この信条を忘れさえしなければ。自分はきっと大丈夫。
大丈夫。
「さ、明日に備えて寝ましょうね。寝不足では足を挫いてしまいます」
無闇に明るい普段通りの口調でそう言う。誰が聞いている訳でも無いが、自分が聞いている。
分かりましたね?思い出しましたね?もう忘れてはいけませんよ?
よろしい。
電気を消して、
布団を被って、
お休みなさい。
……少女は、『本当の神』の発見と邂逅を望む。
その夢が叶うのならば、何と引き換えであっても構わない。
だから、神の写し身たる聖者の生誕は、とても喜ばしい。
喜ばしいが不愉快だ。
全く、2000年以上も昔でなくて、明日生まれてくれれば良かったのに……
そうすれば……
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