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教室の片隅での相談の間の小休止、茜は屋上に上がった。 風が強い。少しよろける様にして手すりに身を預けると、下を見下ろす。 相談が終わったら、戦いだ。 ゴーストを退治に行く事となる。 …怪我をするかもしれない。 ……死ぬかもしれない。 本当の本当は、それこそが都合が良いことなのだけど。 でも、それとは別に、それはそれとして。 怖い。 当たり前だ。 痛いのは嫌だ。危ないのは怖い。消えるのは恐ろしい。 13歳の少女としては実に当たり前の事である。 だけど、能力者としては? 卑しくも神道赤金流合気柔術の跡継ぎとしては? 誰よりも何よりも見て欲しかったあの人、母が望んだ『赤金茜』としては? 「…は。本当、臆病者だね。」 自嘲を言葉にした所で、答えるものなど居ない。 少し間を置いて沸いた『何をやっているんだ』と言う羞恥が頬を熱くするだけだ。 「……イグニッション」 周囲に誰も居ないことを確かめ、おもむろに起動する。 そうして己の姿を改めて見る。 手を覆う鉤状の獣爪。土蜘蛛が学生となって以来、彼らの使う『赤手』の派手さの影で目立たなくなりはしたものの、別にその外装の剣呑さが減じた訳ではない。 身に纏う武者鎧を模した装甲。兜についた飾り角は、時に寄って詠唱兵器である角兜の場合もあるが、さし渡って今は違う。今のこれはただの飾りだ。 総じて、迫力や威嚇に重きを置いた戦姿。 この姿で時にゲラゲラ笑いながら、時に不機嫌そうな顔で、戦場を駆ける。 それは能力者と言うより、寧ろ恐怖や災厄を振りまく側の存在の様。 ……なるほど、威嚇や脅しをかけ、相手の戦意を削る。 それは、それなりに普遍的な戦略の一つではある。 人間が相手なら。 茜の敵はゴーストだ。 威嚇や脅しが意味を持ち得るのは、せいぜいリリスを相手にした時位だろう。 では何故? 威嚇や脅しの意図でないのなら何故こんな姿を? あんな戦い方を? 例えばどれほど恐ろしい姿の妖獣であっても、狂気を孕んだ地縛霊であっても、冷酷無常なリリスであっても、一群をなすリビングデッドの群れでさえも、恐ろしいと感じない存在とは何か? 答えはゴースト。 『恐れさせる側』に回れば、アチラの側に立てば、もう怖くない。 屁理屈だ。 屁理屈だが、まあ、それなりに効果があるのも事実。 だから…… 「…本当、弱いなあ……」 分かってる。 分かってるさ。 分かってはいるんだ。 けど分かりたくない。 運命予報士の口から語られたゴーストの言葉が、不意に脳裏に蘇る。 『「弱い子だから……いけないのぉ……」』 分かりたくない。 だから分からない。 分からないのだけど。 「………」 ……。 PR |
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