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【2024/11/24 03:58 】 |
【IF Another despair】 悪い子
此処を最初から読んで置かないと意味不明です。

妄想と熱血とアンオフィ上等二次創作精神で紡がれるif小説です。

文句がある人は回れ右。

楽しめる人だけ入る権利がありますよ。

黒く塗り潰せ 月も太陽も 邪魔する奴には Dynamite!
誰も信じない 此処は天国の 裏側にある……


////////////////////////





過去など、心の重石に過ぎない。

背負って重いモノなど、何故捨てない理由があるというのか。

経験が残ればいいのだ。思い出なんてモノに何の意味がある?





【20XX年 封鎖特区 鎌倉】


「悪鬼“宗主” !覚悟!!」

其の日、鎌倉の暗君たる“宗主”は、 エノシマ・エリア の外れ。寂れ人の寄り付かぬその土地に現れた。それもたった一人の護衛も付けずに、だ。その好機を狙うものが居る事は当然の帰結であり、


「覚悟?……ああ、確か…か弱い虫ケラが唱えるお祈りの言葉でしたか?」


そしてたった一人、愛用の戦槌を手に微笑む“宗主”の周囲に、夥しい数の死体がばら撒かれたこの惨状もまた……避け得ぬ必然と言えた。
“宗主”が何に拠って、この煉獄と化した鎌倉に君臨しているのか。彼らとてソレが分からなかった訳ではない。
だが、それでも『もしかしたら』、戦の現人神とまで言われるこの男とて、一対多であればもしかして。
……そんな万が一の可能性に賭けた勇者達を、一体誰が嘲る事が出来よう。

「全く、無意味な事ですね」

だが其の彼らを、“宗主”は一片の躊躇いもなく踏み抜く。精神的にも、物理的にも。
熟した石榴の様に砕け、“宗主”の白い靴を赤く染めた仲間の頭蓋を見るにつけ……元より死など忘れた心算だった彼らにも、僅かばかりの動揺が走り始めた。

“宗主”は、変わらず微笑んでいる。穏やかに、いっそ優しげに。

戦槌に砕かれ、地に伏せた英霊は30余り。未だ地に立つ勇者達既に20足らず。
だがしかし、覚悟にかけて、大義に誓って、逃げる事等出来ない。

「無意味じゃない!」

年若い叫び声が響いた。
一際年若い青年。“勇者”の一人が、古びたガトリングガンを掲げている。
真っ直ぐと、“宗主”に向けて。

「コレは無意味なことなんかじゃない!コレを見ろ!!」

“宗主”はほんの少しだけキョトンとして、掲げられたガトリングを見る。

「随分と年季の入った道具ですね、交換をお勧めします」

「ふざけるな!」

激昂。

「コレは、ボクが最も尊敬する人に貰った物だ」

“宗主”は無言のまま片眉を少しだけ上げ、少し笑みを深くした。
小馬鹿にするように。

「お前からすれば、いや、ボク以外の誰から見てもコレはただの古びたガトリングかもしれない。だけど!ボクにとっては違う! 」

興奮する青年を前に、“宗主”はただただ微笑んでいる。
続きを促すように。

「強くて優しい人だった……弱かったボクはただ見上げているだけだった。けどな、そのボクをあの人は叱ったんだ。“何を諦めている。お前はそんなもんじゃない筈だ”って。そして、コレを渡してくれた」

騎士が王に賜った剣を誇るかの如く、ガトリングを更に高く掲げる。

「分かるか?コレは“あの人”がボクに、弱かったボクに向けてくれた信頼の証なんだ!少なくともボクはそう信じている。だからこのガトリングにかけてボクは“弱くない”。ボクは強い!お前なんかには負けない!!」

圧倒的な実力差を持つ相手を前にして、堂々と胸を張り、そう叫ぶ。
そして青年は、背後に並ぶ『仲間達』を指し示した。

「コレはボクだけじゃない。皆そうだ。ボク……いや、“俺達”は皆それぞれボクと同じに“何か”を背負ってるんだ。誰かの信頼を、期待を、愛を、約束を、無念を!」

その瞳には、確かな炎が燃えている。
それは彼自身の言う通り、誰かによって灯された想いなのだろう。

「誓った約束が“俺達”を守る。貰った想いが“俺達”を強くする。この身に背負った掛け替えのモノの為に“俺達”は負けない!!」

「……」


「“俺達”はお前を倒す!悪夢は、此処で終わりだ!!」


響き渡る大音声。
何処までも熱く、真っ直ぐに。

見れば、先程まで浮き足立っていた者達が何時の間にか皆、一様に再び勇者の貌を取り戻していた。
再び構えを取れ。宗主を打倒せよ。恐れ無用。覚悟完了。

「……やれやれ…」

初めて笑顔を崩した宗主”が、ほんの少し憂鬱そうな顔をする。
頭痛を振り払うかのように軽く首を振り、ゆっくりと口を開……

こうとしたその時、不意に一陣の風が吹いた。



「ゆーめきゅーきーっく」



そんな、場にそぐわない事この上ない、おどけた声と共に。

全員が呆気に取られた。
何せバラしてしまえば“風”の正体は『牙道砲』である。
……そもそもキックですら無い。
気の抜けた技名と合わせて、誰の身体にも命中しなかった事も重なり。その場の誰もがその一撃が何を『成した』のかに、中々気づけずにいた。

「…あ……あ?……あ、あああああ!!」

最初に気づいたのは、当然と言えば余りに当然。『其れの今の持ち主』である。
…彼が今の今まで掲げていたガトリング。彼が誇る“誰か”の、彼にとっての象徴。
それが、持ち手を残して粉々に砕け散っている。

コレだけ形を喪ってしまえば、例え集めてイグニッションカードに戻したとしても……最早元には戻るまい。


「ぅぁあああ!?そんな、そんな!」

「アハハハ、メンゴメンゴですよー」

錯乱してガトリング“だったモノ”の破片をかき集める青年を前に立ち。
その女は大仰な仕草で御辞儀をした。

「いやー、だって頭の悪いゆとりさんのタワゴトは聞くに耐えないものですのでー。とりあえず蹴っぽって見ました。エヘ」

あまつさえ頬に指を当てて可愛ぶって見せる。
涙さえ浮かべ、残留思念を揮発させて行く残骸の前に座り込む青年の前で、だ。

「と言う訳で迎えに上がりましたよメガメガネー」

「ハハ、貴女は相変わらず、酷い人ですね。“銅”」

教団の誰かが聞けば仰天の余りショック死しかねない、無礼極まる呼称を笑顔で受け流し、“宗主”は苦笑しながら血糊のこびり付いた戦槌を拭いだした。
丸で、この場ではもうコレが汚れる事は無いとでも言う様に。

「いいえ、それは違いますよダウトです。私は『酷い人』じゃありません」

飾り気と言うものに欠ける焦げ茶の戦装束。
頭にかけられた無個性な表情の白面。
両手を彩るは無骨な鉤爪のみ。

そんな、

おおよそ拘りや思い入れと言うものに全く欠ける姿で。
いっそウットリとした風に赤茶の瞳を細め。
愉快で仕方が無いと言う顔で。

“あかがね”と呼ばれた女は哂った。



「私は、『悪い子』です」








過去など、心の足枷に過ぎない。

背負って痛むモノなど、何故捨てない理由があるというのか。

実益が残ればいいのだ。思い出なんてモノに何の必要がある?







「そうそう、貴女は“主任”とは旧知でしたね?あの人、死にましたよ」

不意に、何と言う事も無さ気に、“宗主”はそう言った。

「ああ、知ってます知ってます。メール来ましたから!」

同じく。どうとも無さそうに、アッケラカンと“銅”は答える。

「ほう、メールですか。それは、彼女からの?」

「ええ。それが聞いて下さいな!そのメール、『後は任せた』とか書いてるんですよ!?私思わずコーヒー牛乳噴きました!!」

後で文面コピって提出しますねー。
“銅”はそう言葉を締め、ケラケラと哂った。
旧知の信頼を、嘲笑と共にアッサリと売り渡した。

「ふふふ、よりによって貴女にそんなメールを送るとは、彼女の目も案外節穴だったと言う事。ですかね?」

「全くですね!アレでコネクションの申し子だって言うんだから笑っちゃいますよ」

双方、楽しそうに、和やかに話を続ける。
一人の人間の死に纏わる話が、どうでも良い些事だと言わんばかりに。

そして今自分達の居るこの状況もまた、どうでも良い些事だと言わんばかりに。


「いい加減にしろッ!!!!」


溜まりかねた様な叫び声が上がった。
……それはそうだろう。
彼らの会話は、20名足らずの“敵”の目の前で成されていたのだから。

“銅”が現れ、名乗りを上げた時、“勇者達”は一瞬戸惑った。
ただでさえ絶望的だった勝負の行く末が又一つ暗くなったと。
だが、現れた援軍が“銅”一人だと言う事。“銅”の名をその場にいた誰も知らず、即ち大した実力者ではあるまいと判断した事。そして何より、彼らの“覚悟”をタワゴトと断し、“宗主”とは別の形で踏み躙ったその言動が…
彼らにより一層の覚悟を決めさせた。
そして彼らは動き出す。周囲を取り囲み、一斉に飛び掛る準備。
20名足らずのウチの誰か一人の一撃で良い。“宗主”に届く事を願って…

其の時である。出し抜けにこの会話が始まったのは。

目の前の“勇者達”等、霞か空気と同じだと言うかのように。
未だ、彼らの尊厳を汚し足りないとでも言うかのように。
傍目に見ていれば、それは喜劇そのものの風景だったかも知れない。
周囲に、“宗主”によって量産された30名余りの死体が転がっていなければ。

勇者の覚悟を踏み躙り
英霊の無念を踏み躙り
戦場の尊厳を踏み躙り
微笑む。

コレを悪鬼と呼ばずして何と呼ぼう。


「…ふざけるな!…お前達は何処まで、何処まで俺達を馬鹿にすれば…気が済……

“勇者の一人”が 血を吐く様に声を搾り出し、
次の瞬間、今度は本当に血反吐を吐いて言葉を途切らせた。

「だって、馬鹿を馬鹿と言うのは普通でしょう?」

何時の間にか、文字通り【何時の間にか】、目前に“銅”が立って居る。
その右手が、鉤爪の嵌った掌が、目前の男の腹の中に捻入っていた。
致命傷だ。

「「「貴様ぁっ!!」」」

反射的に、三人が一斉に飛び掛る。仲間を救うために、“銅”を屠るために。
そんな彼らを見上げ、“銅”は一つ溜め息をつき、

その三名に向けて扇状に、ぶちまけるように、男の臓物を投げつけた。

「 「「!!!!」」」

飛び散る血潮が、小腸が、そして何より其れが仲間の命そのものだと言う認識が、三人の動きを一瞬だけ鈍らせる────そして

その一瞬の間に、“銅”は既に次の行動を終わらせていた────

「だからー、何で其処で怯みますかねー?無視すれば良いでしょ?内臓は柔らかいんだから」

口の位置で横薙ぎに顔を両断された男の口蓋に鉤爪を引っ掛けながら、丸で聞き分けの無い子供に言い聞かせる様に呟く。
そして今度は今身体から引き剥がしたばかりの“頭”を、長刀を振り翳し突撃せんとしていた男に向け、無造作に投げ付けた。
硬い頭蓋を無視する訳には行かない。男はほんの少し足を緩めてコレを避け、

“銅”は其のほんの少し隙を使って、男の眼球と脳髄を無造作に貫く。

「長刀で打ち返せば良いでしょー?そうでなくても打ち払えば隙は最小限でしょうに」

最早モノと化した長刀使いの身体を、指を差し込んだ両の目を支点に器用にクルリ回し、突撃して来た3名の最後の一人に投げ付ける。長剣二本を横長に構え、姿勢を低くして走り込んできていた其の女性は、その“飛来物”をかわしきれず。自分と同等以上の重量にその身を強打され、動きを止めた。
勿論、飛来物が“仲間だったモノ”であった事が、彼女の動きを鈍くした事は言うまでも無い。


「はあ、キミ達さ……いい加減気づかない?今死んだ二人はさ、“仲間への思い入れ”に殺されたんだよ?」


こびり付いた血糊を払いながら、砕けた口調となって“銅”は嘯く。
誰も何も言い返さない。事実、今“銅”が行った一連の攻撃は単純なものと言える。

相手に隙を作り→その隙を突く。ただ、その繰り返し。

何らかの旧い格闘技と思しき体術に裏打ちされては居るものの、“銅”そのものの動きは“宗主”とは違い、『ケタが違う』と言う様なモノでは無かった。


強さが格別際立っている訳ではない。
だがこの女は、『相手に隙を作る事』。そして『一瞬の隙を突く事』。その二点をただ只管に練磨し特化する事で、どんな闘いに置いても、彼我の実力差に関わらず、文字通り勝利を掠め取る事の出来得る『力』を得た。
最強ではなく、最強に継ぐ者でもなく、その次になってようやく現れる。
だが、確かに其処に在る『成果』。
故に“銅(あかがね)”。


だが……それは逆に言えば……隙さえ作られなければ、斃れていたのは彼等ではなく“銅”の方だったのかも知れないと言う事だ。
しかし現実に彼らは隙を作り、故に死んだ。
だから、彼らの仲間意識こそが彼らを殺したと言うその言葉は……
確かに、一面的には真実と言える。

「そもそも、そうまでして、たった一つの命を捨ててまで“宗主”様を殺そうとなさっているのは何故ですか?」

自分で聞いておきながら、答えを待たずに言葉を続ける。

「それも何かの思い入れが理由でしょう?仲間の恋人の家族の世界の為にとか、殺されたから仇討ちとか意志を継ぐとか、信念とか心情とか誇りとか拘りの為とか。どーせそー言った感じの動機でしょう?」

肩を竦め、顎を上げて言葉を紡ぐ。
これ以上は無いほどに、見下した目で。

「重たくないですか?」
『…ごめんね茜ちゃん。私、絶対戻ってくるから!』
「邪魔じゃないですか?」
『又会おう!そして再び共に地雷を踏もうではないか茜殿』
「辛くいないですか?」
『…んー。あっちの地方の伝承によるとだなー…』
「鬱陶しくないですか?」
『私は私で勝手にお前を信じ続ける!!ふははは!止めれまい参ったか!』
「意味なんて無いんじゃないですか?」
『悪い、オレここまでだ。シャクだけど、後、頼む』
「価値なんてないでしょう?」
『にゃははははは!』
「何時まで引きずり続けるつもりなんですか?」
『ん?どうしたの茜クン。顔赤いよ!風邪?』

「そのウチ、背負い切れなくなりますよ?」



「だからいっそ、全部投げ出しちゃいましょうよ」



ニタアリと笑う。
ニヤニヤと哂う。

「忘れたくありませんか?投げ出したく無い?アハハハハ無駄ですよ。全てを背負いきれる人間なんて居ない。何時か限界が来るんです。絶対に。貴方達が何に誰にドレだけ深く“宗主”の打倒を誓おうとも、その誓いは貴方達を縛って締め上げる。やがて貴方達は疲れ果ててツマラナイ娘にでも恋をしてコレが幸せなのかなーとか思ってナアナアにしちゃったりね!そうでなきゃ潰れるだけですよ!潰れて壊れるだけ!!」

そんなのは嫌でしょう?少なくとも、私は嫌です。
脅しをかけるように前屈みの仕草で、“銅”の口上は続く。

「要らないじゃあ無いですか。捨てましょうよ。忘れましょうよ。楽になりますよ?楽しくなりますよ?友情も愛情も信念も尊厳も倫理も道理も夢も希望も!アハハハハ、ぜーんぶポイッ!!」

心底愉快そうに哂いながら、自らを指差した。

「そうしたら、こんなにもシアワセですよ?」

鉤爪を口元にやり、 女はソロリと舌を伸ばす。
そして、刀身を真っ赤に染めている血糊を、見せ付けるように舐め取って見せた。

「ウフフフ、甘ぁい……。コレにはきっと、死んだ人の不幸や死そのものが染付いてるんですね。だから、甘い。……そう感じるのは私だけですか?いいえ、貴方達だって、心がけ次第で今すぐにでもこうなれますとも

ウットリと、笑って。

「だから、ね?貴方達も、堕ちませんか?一緒に」

誘いをかける。
闇の鎖をゾロリと伸ばす。


「……言いたい事はそれだけか」



返事は、押し殺した怒声だった。

“銅”が捨てろと言った全てを背負い。
“銅”が無用と断した全てを両手に持って。
“勇者達”は、己の尊厳を貫く。

「……あーあ、折角チャンスあげたのになー」

“銅”は空を仰ぎ、ため息を吐き、肩を竦め、今度は顔を俯かせ、出し抜けに牙道砲を放ち、最後に顔を上げた。

「「「!!!!」」」

隙とすら言えない、コンマ0.1にも満たない“間”を突かれ吹っ飛んだ仲間に、一瞬全員の視線が集まる。……無論、生じたその隙はさっきの非ではない。

──獣撃拳──

ドス黒い瘴気を纏う鉤爪の一撃を受け、頭部の8割を消し飛ばされた男の身体がユックリと斃れる。その男の上着を千切り周囲に目隠しと撒きながら、“銅”は叫んだ。笑顔で。


「ハイ、それじゃブチ壊しますねっ!」



殺戮の宴が、再び始まる。







過去など、心の害悪に過ぎない。

背負って辛いモノなど、何故逃げない理由が在るというのか。

記録が残れば充分じゃないか。思い出なんてモノに何の価値がある?








ボチャン!

最後の一人が音を立てて川に落ちた。
惨劇の戦場の傍らに、流れの速い川が隠れるように存在したのだ。

落ちたのは、最初に“銅”にガトリングを粉砕された青年。
もう力が残っていないのだろう、足掻く仕草も弱弱しく、浮き沈みを繰り返しながら流れ、見る見る視界の外に消えて行く。
だが、その目だけは、最後まで“宗主”と“銅”を射抜いていた。
『オマエタチダケハゼッタイニユルサナイ』と。

「あー、流されちゃいましたねー。アレって環境汚染でしょうか?」

アッケラカンと見送り、冗談めかして“宗主”に問いかける“銅”。
その全身は、周囲の──先程より20足らずほど増えた──肉塊達の返り血や脳漿で余す事無くベッタリと汚れていた。

「さて、それはどうでしょう。生き延びるかもしれませんよ?彼」

“宗主”の返事もまた、アッケラカンとしたものだった。
だが、その言葉の持つ意味に、“銅”が少しだけ眉を顰める。

「あの傷で?フツー溺死でしょう。……あ、思い出を抱いて溺死しろーっとか言うべきでしたねさっき。ち、ネタのチャンスを逃すとは不覚です!」

「貴女も気づいて居たでしょう?あのガトリング、アレは“彼女”のモノだ」

“銅”の後半の軽口を無視し、“宗主”は血に転がるガトリングの欠片を指差す。破片大のサイズの上に血に濡れてはいたが、其処には辛うじて『☆があり…』と書かれているのが読みとれた。

「彼女の薫陶を受けた者であれば、小者であっても油断は出来ません」

化けるかもしれませんから。そう言葉を続けながら、しかし寧ろ楽しそうに笑う“宗主”を前に、“銅”は更に眉を顰める。

「それはゾッとしませんね。今から追っかけてキッチリ壊して置きましょーか」

その言葉に、“宗主”は肩をすくめる事で答えた。

「必要ありませんよ。追撃した所でどうせ逃げられるでしょう?それは無駄と言うものです」

気の無い様子で、アッサリとそう断する。

「……“どうせ逃げられる”?どう言う意味ですか?それは」

どんどん眉間の皺を深くする“銅”に対し、“宗主”は何処までも笑顔だった。

「いえ、別に。……ただ、あのまま貴女が現れなければ、彼等は一人残らず死んでいたでしょう」

“宗主”の戦槌によって、確実に着実に全てを砕かれて、“送られる”。
其処には一片の取りこぼしも無かっただろう。

「つまり、結果的に貴女の御蔭で彼は生き延びたのだとも言えるのだな。と」

何時の間にか、“宗主”は青年が生き延びる事を前提として話している。
……彼の青年の傷に、深くはあれども致命傷となるモノは一つも無かった事を見て取っていたのだ。
コンマ0.01秒の間。
「へえ、素敵ですねソレ!それじゃ私、何気にあの人の恩人じゃないですか!ウフフ、嬉しいなー。地獄でお釈迦様に蜘蛛の糸を下ろして貰えそうです!!」

“銅”は即座に爆笑して見せた。
事の他“宗主”の言葉が面白かったらしく、自分の膝を鉤爪の腹で叩いての大笑いである。…何度か爪先が若干突き刺さっているが、気にならないのだろうか…。

“宗主”は、そんな彼女の目を変わらぬ微笑で眺めていたが、やがて納得したかの様に視線を戻すと、ツカツカと歩み始める。

「では帰りますよ“銅”。今回の働きに関しては、後程何かボーナスを出しましょう……そうですね、次の夜伽の参加権、でも構いませんよ?」

クスクスと笑う“宗主”に、“銅”も又笑って追従し、斜め後ろについて歩み出した。

「良いですねえソレ。最近どうも刺激が足りないたって思ってたんです。久しぶりに鬼畜メガメガネーにヒドイ目に合わされて見るのも素敵です」

「おや、色よい返事が返ってくるとはね。有難い事だ」

「だって、“宗主”様から誘われたのは初めてですしね、トキメキますともですよー。……どう言う風の吹き回しですか?」

「いや、何。最近は物騒でしてね。夜伽に呼んだ側女が、その身に武器を隠し持っている事も多いのですよ」

「はっはー、暗殺狙いですか。無謀ですねえ」

「そんな時、貴女が居れば安心です」

“銅”は、思わず立ち止まって笑い飛ばした。

「まったまた!何を言いますか、貴方を暗殺できる人なんて居る分けないじゃないですか馬鹿らしい!!」

「いえいえ、分かりませんよ?」

「ないない、それはないです。大体貴方この間なんて、三徹後の熟睡中に襲ってきた暗殺者を即座に叩き殺してたでしょう!寝てる時にも油断してない人をどーやって暗殺できるんですか」

「さあてそれでも、この鎌倉は化け物の宝庫だ。様々な“神業”を持つ能力者が犇いている。それこそ、『何の為にそんな変な技術に習熟する事に人生投げ打ったんですか?』と聞きたくなる様なモノも居ます」

わざとらしい仕草で空を仰ぎ、記憶を探るような仕草をする“宗主”。

「そうですね、例えば……」

顔を下ろし、嬉しそうに微笑みながらピっと指を立てる。
実に、芝居じみた仕草で。




「“無きに等しい程の隙を突いて殺す事に特化”した能力者。とか」





コンマ0.1秒の間。
「あははは!それは確かに!!でーもー、そもそも“無い隙”はつけないんじゃないですか?」

貴方には分子一個分程のサイズの隙だってきっとありませんよー。
そう言って“銅”は一層声高に笑った。

「そうですね。しかし、無いのなら作れば良いとも言いますし?

“銅”から数秒遅れて立ち止まり、クルリと振り返る“宗主”。


その表情は笑顔。

楽しくて楽しくて仕方が無いとでも言いたげに。
楽しみで楽しみで仕様が無いとでも言いたげに。
丸で、クリスマスイブの夜。靴下を見つめる子供の様な。

無邪気な笑顔。


「さあ、今度こそ帰りましょう。ボヤボヤしていると置いて行きますよ?」

唐突に、
“宗主”は再び前を向き直り、スタスタと歩みを再開した。
彼は多忙だ。その頭の中にはこれから帰着した後に己が成す『最悪と災厄と害悪』の算段が、それこそ隙間無くミッチリと犇いているのだろう。

“銅”は暫くそんな主人の背を見ていたが、やがて呆れた様に肩を竦めた。

「……はぁ、ヤんなっちゃいますね。疑り深いんだからもー」

そう呟き、嘲るような笑みを浮かべる。
何かを、誰かを、心の其処から嘲り見下した笑顔。



過去。
心の重石。足枷。害悪。
下らない。

約束。
重い。痛い。辛い。
冗談じゃない。

思い出。
意味が無い。必要が無い。価値が無い。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。


そんなモノに踊らされて
そんなモノに縛られて
そんなモノに縋って

本気で馬鹿じゃないのか!?
頭おかしいじゃない!?
脳が間抜けか!?

本当に下らない冗談じゃない馬鹿馬鹿しい!!

私はそんなものいらない。

いらない。

いらないのに



「…あー!ちょっと待って下さい、本当に置いて行かないで下さいよー」

ふと気づけば、“宗主”のシルエットは既にすっかり遠くなっていた。
“銅”は冗談混じりに慌てた仕草で叫ぶと、地に散らばる“勇者達だったモノ”を一片の躊躇も無く踏み分けて走り出す。

そして最後に、己の顔にベッタリとついた“勇者達”の血を、彼らの“不幸”と“死”がこれ以上ないくらいに染み付いた血糊を、長い舌でベロリと舐め取り……

ニタリと笑った。

「……苦いよ…」
そんな言葉を、涙と一緒に飲み込んで。
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【2007/09/03 21:55 】 | メモ | 突っ込み(0) | トラックバック()
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